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ゲームの力を信じ続けること ー軋みから生まれる次の可能性ー(2008/12) [いま、ここ、わたし]

2008年12月に日本シミュレーション&ゲーミング学会(JASAG)の学会誌に投稿した文章を載せてみます。

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ゲームの力を信じ続けること ー軋みから生まれる次の可能性ー

 「お前が先生だったらよかったのに」
 高校の卒業式の帰り、汽車にゆられているなか友人のTは私にそういったのでした。
 Tは一般的に不良と呼ばれるヤツで、学校も来たり来なかったり、授業に出ても教師と喧嘩を始めるようなヤツでした。
 北海道の田舎の高校に通う私は、優等生ではなく、かといって不良でもない、ただコンピューターゲームが好きで、コンピューターゲームを作れる仕事につきたいと思っていた高校生でした。
 卒業後、コンピュータープログラムの専門学校を経て、運良くゲーム会社へ入社した私は好きなことを仕事にしたこともあり仕事に打ち込みました。
 その時のゲーム業界はファミコンブームが一段落し、任天堂のスーパーファミコンが発売された時期で、一定の成熟期に入った感がありました。
 今にして思えば作ってる作品もチーム人数もそれほど大きな規模ではなく、手の届く範囲のやり方で、かつ「ゲームが好き」という気持ちだけでやっていた面が強かったと思います。自分も業界も「若い」という面もあったでしょう。
 ただ、はじめの会社を辞め、ちいさなゲーム開発会社に転職したことで、「ゲームが好き」だけではない仕事の仕方、つまりコスト計算やクライアントとの駆け引きの仕方を身に着けていった私は、ゲームマシンの進化に伴う開発規模拡大のタイミングとも相まって、自分にとって「ゲームを作る」ということがどういうことなのか、どんどん分からなくなっていきました。
 その当時、そんな私の悩みを相談した以前の上司には「青いな。大人になれよ」なんて言われたりもしました。
 どこからか「シリアスゲーム」という単語を耳にしたのはそんなころで、いろいろと調べるうちにJASAGのことを知りました。
 JASAGに出会う以前から、教育については興味があり、本などはよく読んでいましたが、それをゲームと直接つなぐことは、あまり想像していなかったので、シミュレーションやゲーミングを通して、教育や学習に積極的に関わるJASAGの姿勢に強く興味をひかれたことを覚えています。
 参加させていただいた当初は、自分が何か新しいゲームを作り出せるようになるきっかけにできるのではないかと思っていましたが、すぐにそういう自分勝手な「新しさ」を前提にした考え方と教育や学習は相性が悪いのではないかという風に考えるようになりました。
 それは、自分の教育への思いと連動しているのですが、何かそういう「新しさ」、自分の都合による「ネタ」を優先するような考え方は、目の前の人を見えなくし、上から何かを押し付けるような結果になるのではないか、それは自分が思う教育とは違うのではないか、という気持ちでした。
 「お前が先生だったらよかったのに」とTに言われたことは、自分が教育というものを考える原点になっていますが、彼の言葉から私が勝手に想像していったのは、一緒に寄り添って考えていくことの必要性、早急に分かりやすい答えを出すことではなく、時間をかける、手間隙をおしまない、そういうことが必要なんじゃないか、ということでした。
 そんな長らく暖めてきた自分の教育に対する考え方と、ビジネスという早急に結果を求めざるをえない場所に長く身を置いてきた感覚が、JASAGに参加させていただくようになって、矛盾とまでは言い過ぎにしても、何らかの軋みを自分に与えていることは確かです。
 JASAGに参加してみなさんの話を聞いていると、とても長い単位で物を考えられているんだなと思い、いかに自分が短い単位でしか物を見れていないか痛感させられます。
 ただそれは心地よい痛みであって、自分なりの「教育とゲームの接点」を見つけるためには必要な振り返りであると感じていますし、もしかするとそれ以上に「ゲームが好き」という、そもそもゲーム製作者を目指した自分の原点をも振り返り、次の「何か」を見つけるきっかけになるのではないだろうかと、最近は思っています。
 私もあなたも、そしてもしかしたら世の中をも楽しくしていける、ゲームにはそんな力があると思います。
 ゲームを作る人たち、そして遊んでくれる人たちが、その力を信じ続け実践していくこと。それだけがゲームの力を引き出すのではないでしょうか。

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